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2020年2月9日放送は サンリオピューロランドの売上が伸びている秘密を探る
[再放送と見逃し配信動画の情報]サンリオピューロランドの事業内容、創業年、売上(2019年)、利益
サンリオピューロランドを運営する「株式会社サンリオエンターテイメント」(東京都多摩市)は、2009年設立(注1)、サンリオ株式会社の100%子会社です。
資本金は1億円 従業員は350人
年間売上高は90億円、純利益は2億1,200万円(2019年3月決算)
今年度(2019年4月~12月までの9ヶ月間)の売上は約80億円(注2)
これは前年の同じ時期と比べ、プラス7億円(+10%)の増収となっています。(注3)
注1.ピューロランドは1990年開園 株式会社サンリオエンターテイメントは前運営会社からピューロランドを承継した
注2.株式会社サンリオエンターテイメントは大分県のテーマパーク「ハーモニーランド」も運営、売上はその合計
注3.株式会社サンリオエンターテイメントは100%子会社で非上場 上記売上はサンリオ株式会社、連結決算の数値
参考
①サンリオホームページ/サンリオ株式会社・第59期(2019年3月期)有価証券報告書
https://ssl4.eir-parts.net/doc/8136/yuho_pdf/S100G9KC/00.pdf
②サンリオホームページ/サンリオ株式会社・第60期(2020年3月期)第3四半期決算説明資料
https://ssl4.eir-parts.net/doc/8136/tdnet/1795772/00.pdf
③官報決算データベース
株式会社サンリオエンターテイメント 第9期決算公告
https://catr.jp/settlements/0a8d7/20611
ゲストは代表取締役社長 小巻亜矢さん
小巻社長はサンリオに入社後、一度は結婚退職し、その後復職したという経験をお持ちです。
復職後はピューロランドの館長や顧問を務め、そして2019年に株式会社サンリオエンターテイメントの代表取締役社長に就任しました。
親会社のサンリオ(株)は、創業者の辻信太郎氏が一代で築いた、キャラクター製品販売の大手です。小巻社長は辻氏と血縁関係のない「生え抜き」で、社長まで登り詰めた女性です。
開園後業績は低迷したが、最近はV字回復
ピューロランドは1990年にオープン。バブル崩壊後、入場者数は減少を続け「サンリオのお荷物」と揶揄されたこともありました。
しかし最近になり、入場者数は減少から増加へと転じ、2018年には開園以来最高となる218万人を達成するなど絶好調。特に2014年からは、まさに「V字回復」と呼ぶに相応しく好調な業績を維持しています。
実はこの2014年という年が、サンリオピューロランドのターニングポイントになっています。
番組では「黒字化は不可能」とまで言われた同社を、どうやって復活させたか探っていきます。
2014年の大転換 子供から「大人の女性」へターゲットを変えた
2014年に小巻社長(当時は顧問)が主導し、入園客ターゲットを「子供と家族連れ」から大人の女性に変えました。
これは開園以来続いてきた基本方針の大転換で、小巻社長も「成功するのか?と不安もあった」と正直な胸の内を吐露されています。
トップですら絶対の自信が持てないほどの決断も、結果を見れば「大英断」だったわけですが、これまでのさまざまな失敗を調査・分析し、それに基づく綿密な計画があったうえでの決断でした。
まず2014年、1つ目の大きな変化はトップの交代です。
サンリオピューロランドの初代社長(男性)に代わって、サンリオ創業者であり立志伝中の人物、辻信太郎氏が社長に就任しました。これは、低迷する業績を創業者自身でテコ入れするためだったと考えられます。
サンリオの生みの親である辻氏と、その辻氏のもとで改革の大ナタを振るった小巻氏。その過程でさまざまなドラマがあったと想像されます。
辻氏は「仲良く」という言葉を好んで使いますが、この「仲良く」という精神はサンリオピューロランドにも浸透しています。
辻氏の「仲良く」、そして小巻社長の「かわいい」、この2つがタッグを組んだ2014年からサンリオピューロランドの快進撃が始まります。
(小巻氏の「かわいい」はサンリオピューロランドにとって重要なキーワード、本文の後半で詳しく説明します)
子供向けから大人の女性へ~3つの転換 来てもらう 買ってもらう 食べてもらう
2014年、子供向けから大人の女性向けへの転換には、以下の3本柱があります。
子供向けから大人の女性へ 3つの転換
① 来てもらう~入場料アップ対策
② 買ってもらう~グッズ売上アップ対策
③ 食べてもらう~飲食売上アップ対策
①来てもらう→ 入場料アップには大人の女性を呼び込め
ミュージカルやパレードといった見せるアトラクションを、大人の女性向けに変更しました。
以前のミュージカルは、キャラクターがメインのメルヘンチックなものでしたが、これをアニメがテーマでイケメンが歌い踊る「2.5次元」の世界へと変更しました。
番組では、ショーの途中で出演者(イケメン)が「ここから撮影タイムだよ!」と宣言。女性がカメラやスマホを一斉に向けるシーンが紹介されました。
ある女性は撮影する目的だけでショーを100回も見ているそうで、この人だけで100人分の入場料を稼げたことになります。
パレード(平日は1日1回、週末は2回)も、大人の女性向けに大変身しました。
以前はキャラクターが手を振るだけだった形式を、ライブ感覚で観客も参加できる内容へと変更しました。こちらもパレード目当ての女性が増え、やはり入場料アップにつながっています。
ミュージカルもパレードも、もちろん入場してくれるだけで入場料が稼げるのですが、そのまますぐに帰る人ばかりでありません。ショーを見たあとに、グッズを買ったり食事をしたりと、次の「がっちり」にもつながっていきます。
高校1年生の私の娘のサンリオピューロランド体験談 その1
ちなみに私の娘(高1)も2019年夏、友達同士でサンリオピューロランドに行きました。
最初は「パレードなんて」と思っていたそうですが、観覧用ロープなどで素通りできず、仕方なくそのままパレードを見ることに。すると、その素晴らしい内容にあっという間に夢中になって「気がついたら大声でみんなと一緒に叫んでた!」(娘談)そうです。
パレードを見ないと移動できないよう、計算されていたのかもしれません。いや、もしかしたら購買意欲をアップさせるピューロランドの策略かも知れません。
その証拠に、私からの臨時お小遣いは全額グッズ代に消えてしまったのですから。
高校1年生の私の娘のサンリオピューロランド体験談 その2
それまで私の娘には大好き!というキャラクターはいなかったそうです。
しかし、この日のショーやアトラクションで「シナモロール」が大好きになり、今ではこの日のグッズも含め、娘の周りはシナモロールだらけになっています。
キャラクターの魅力を最大限に、かつ効果的に引き出してファンへと変えてしまう、このあたりに、サンリオピューロランドの周到な計算が見えるように感じました。
そういう意味で娘と私は、親子でピューロランドの狙いどおりなのかも知れません。
②買ってもらう→ グッズ売上アップは「推しを推す」と「ザ・お土産から普段使いへ」
大人の女性にはそれぞれ自分の好きなキャラクター、つまり「推しキャラ」があり、
また推しキャラごとにそれぞれ特徴があるそうです。
たとえばマイメロディ好きな女性は、ピンクでフリルなどの、かわいいグッズが好み。
他にも
シナモロール好きは白くてフワフワ、癒やし系のグッズが好み
小悪魔キャラのクロミ好きはクールで大人系、黒を基調としたグッズが多い
またクロミファンは荷物が多めの傾向があるので、バッグなどのグッズもそろえている
など。
このような「推しを推す」販売戦略は、ただ推しキャラを並べるのではなく、顧客の好みや傾向までしっかりと計算されているので、売上もアップしているというわけです。
またグッズ全体を通して、以前はキャラクターが大集合した「ザ・お土産」的なモノばかりでしたが、現在のターゲットである大人の女性は、普段自分で使えるものが欲しいと分析し、そういった普段使いできる商品構成に変え、商品の作りなどクオリティーを重視したのも成功した理由です。
クオリティー重視の証明として、番組では商品開発会議の場面で小巻社長の「かわいいチェック」が紹介されていました。
これは、小巻社長が「かわいい」と思えないグッズは商品化できないという厳しいものです。
小巻社長がこだわるのは顔、そして「かわいいか?」という点。OKが出るまで何回も、多いときには4回!もやり直すことがあるそうです。
③食べてもらう→ ねらいはSNS 食事が「映える・ばえる」と拡散し相乗効果もあり
小巻社長はレストランなどの、園内飲食メニューもダイナミックに変えました。
以前は、キャラクター絵柄の食材が乗ったお子様ランチ的メニュー中心でした。これを、色鮮やかでそしてキャラクターを前面に押し出した内容に変えたのです。
狙いはズバリ「SNS」です。
SNSやインスタ映えなどを意識した、いわば「映える(ばえる)」メニューは、どれも斬新です。
たとえばシナモロールの顔をあしらった「シナモンのとり天☆空カレー」のルーは青色、それも真っ青です。色は奇抜(どうやってこの色を出すか?は企業秘密)ですが、訓練された店員さんにより、平均30秒で提供できるそうです。
こうした「映える」メニューは、入園した女性客が(勝手に)SNSに投稿、つまり頼まなくてもどんどん拡散してもらえる、というわけです。
映えるメニューへの変更は売上アップと同時にSNSによる宣伝、集客という相乗効果も生みました。
社長が仕掛けた社員の意識改革~テーマは「仲良く」
小巻社長は、ピューロランドで働く社員の意識改革にも取り組みました。
これは「ピューロランドの中の人が仲良くなければ、来場したお客様が楽しめるはずはない」という考え方です。
テーマは仲良く~ピューロランドで働く人が仲良くなければダメ!
社員同士が仲良くなければ、気持ちよく働けない
社員が気持ちよく働けないなら、お客さんも楽しめない
だから、意識改革のテーマは仲良く!
司会の加藤さん
「お客様が楽しむために、働いている人も楽しそうでないといけない」
「でも、人にはそれぞれ感情があるから、ピューロランドのような職場は大変」
小巻社長も賛同して
「その通り、自分の感情に気づくことが大切」
「気づかないままだと、そうした悪い感情を抱えたまま接客することになるので、それではいけない」」
加藤さん
「そう!自分の感情というのは自分でわかっているようで、実はわかっていないもの」
「だから他人に教えられて、はじめて自分の気持ちに気づくときもある!」
小巻社長
「ですから、そのために朝礼を工夫しているんです」
社員同士が仲良くなるため小巻社長が仕掛けたこと、それは3つの「仲良く」です。
3つの「仲良く」~ピューロランドの中にいる、みんなが仲良くなるために
1. 社員同士が仲良く→バラバラ、ゴチャゴチャな朝礼
2. 一番遠い存在同士が仲良く→対話フェス
3. 社員と社長が仲良く→社長と2人だけの15分?
社員同士が仲良く~バラバラ、ゴチャゴチャな朝礼
以前は職場ごと、セクションごとの朝礼だったそうで、これはどこの会社でも良くある光景です。
しかし小巻社長は、社員やアルバイトが自分のシフトで出社した時間に、所属はバラバラのままで朝礼をする方式へと変えました。
所属もバラバラなら社員とアルバイトも区別無くゴチャゴチャ、そして朝礼の参加者は毎回自己紹介をしなければならず、結果的にみんなが顔見知りになるそうです。
番組では、朝礼で全員参加のフラフープを使った作業が紹介されました。これは、みんなの意識が一つにならないと成功しないゲーム感覚のもので、楽しみながらコミュニケーションも図れます。
また1ヶ月のあいだにも、日によっていろいろな行事があり、どれも基本的に社員同士の親密度を上げる目的です。
一番遠い存在同士が仲良く~対話フェス
ピューロランドの中の人、その中でも一番遠い存在は「おじさんと女子」(社員、アルバイト)です。
開演30年のピューロランドには、多くのおじさん社員が働いています。
インタビューで男性社員は
「女子社員とのコミュニケーションを、どう取ったら良いか戸惑っていました」
戸惑っていた、と過去形になっているように、社長が大胆に変えた効果が見えます。
小巻社長が考えたのは「対話フェス」
年に1回90分、男性社員と女子1対1の組み合わせで「有無を言わせぬフォークダンス形式」(小巻社長談)により、1回あたり2~3分間、向き合って対話をするというものです。
対話フェスについてのインタビューでは
男性社員
「おかげでずいぶん距離が縮まりました」
女子社員も
「そうです ばっちりです!」
基本的に引っ込み思案なおじさんを、強制的にコミュニケーションの場へと引っ張る対話フェス、実に良く考えられた方法だと感じました。
社員と社長が仲良く~社長と2人だけの15分?
これも社長が始めたことで、社員の誕生月に社長と2人だけで15分間面談できるというものです。
番組では面談の一部が紹介されています。
社長「好きな動物になって、何かこんなことしてみたいっていうのを1つ教えて」
若い男性社員「???」最初は返答に詰まっていました。
社長「今日から自信のタネを育てましょう。そのタネはどんなタネですか?」
女性社員「どんな感じ・・・ですか?」
あえて奇抜な質問をする社長、これは相手の本音を引き出すコーチングの手法です。このような面談で、社員との距離を縮めようと社長自ら取り組んでいます。
サンリオピューロランド復活の秘密は「良いもの×良いもの」のかけ算
ピューロランド復活の秘密は良いもの×良いものというかけ算であり、たとえばイケメン×アニメや、推しキャラ推し×普段使いなど成功への方程式と言えます。
「仲良く」はサンリオ、辻社長の提唱する精神です。小巻社長の口からは、この仲良くという言葉がすごく自然に出てくるように感じられました。
辻氏の薫陶を受けカラダに染みついている、遺伝子を受け継いでいると同時に、小巻社長自身も「仲良く」という精神を持っているのだと思います。そして小巻社長が重視する「かわいい」。
小巻社長が「仲良く」×「かわいい」というかけ算を作り、当社成功の秘密はここにあると言えるでしょう。